防災管理点検の成り立ち
Ⅰ.改正消防法の経緯(「改正消防法」平成21年6月1日施行)
大規模地震や首都直下型地震の発生が切迫している状況を踏まえ、平成19年6月22日に「消防法の一部を改正する法律」が成立公布され、新たに一定の大規模・高層建築物について、自衛消防組織の設置と防災管理者の選任及び火災以外の災害に対応した、消防計画の作成が義務付けられることになりました。
<経緯は以下の通り>
平成18年
7月24日-「予防行政のあり方に関する検討会」を設置
12月13日-同検討会「予防行政のあり方について(中間報告)」にて大規模地震等に対応した自衛消防力の確保について提言
平成19年
2月7日-消防審議会「大規模地震等に対応した消防力の確保に関する答申」
3月6日-「消防法の一部を改正する法律案」が閣議決定し国会へ提出
6月22日-「消防法の一部を改正する法律」が公布
12月26日-「予防行政のあり方について(中間報告)」大規模地震等に対応した消防計画作成ガイドラインの取りまとめ
平成20年
9月24日-消防法施行令・規則の一部改正が公布
10月21日-「消防計画作成ガイドライン」を通知
10月末~12月-消防法改正に係る説明会を実施(全国19カ所)
平成21年
2月~3月-消防法改正に係る説明会(第2回目)を実施(全国17カ所)
6月1日-消防法の一部を改正する法律等の施行
Ⅱ.主な改正点
消防において、従来から消防法第8条により、一定規模以上の収容人員がある事業所には火災及びその他の災害の軽減のため、建物の管理権原者は防火管理者を選任することや、その防火管理者に消防計画を定めさせ、これに基づき防火管理上必要な業務を実施させること、とされていました。しかし改正消防法第36条により地震や火災以外の政令で定める災害について、その被害軽減のため政令で定める一定の大規模建築物にこの規定が準用されることになりました。
1.防災管理の対象となる災害(令第45条)
- 地震のうち東海地震、東南海・南海日本海溝、千島海溝周辺海溝型地震や首都直下型地震等の切迫性のある大規模地震大害を対象とする。 実際には震度6強程度の地震被害を想定して、これに基づいて消防計画を作成すべき地震を対象とする。
- 毒性物質の発散その他の総務省令で定める原因により生ずる特殊な災害(NBCR災害)を対象とする。(消防計画上の対策は、通報連絡、避難誘導のみの実施とする)
- その他事故等についても通報連絡や在館者の避難誘導が必要な場合には、火災、地震における実施体制や要領等について共通する部分が多いため対象とする。(消防計画上の対策は、通報連絡、避難誘導のみの実施とする)
2.防災管理の対象となる防火対象物(令第46条)
防災管理の対象となるのは、多数の人が利用する大規模・高層の防火対象物など消防防災上のリスクが大きく自衛消防組織を設置しなければならない防火対象物の要件に該当するもの。ただし、複合用途防火対象物にあっては、自衛消防組織の設置対象部分のみに自衛消防組織の設置義務が課せられているのに対して、防災管理については、用途にかかわりなくすべての部分に防災管理者の選任等が義務づけられています。
3.対象要件
共同住宅等{(5)項ロ}、格納庫等{(13)項ロ}、倉庫{(14)項}を除いた全ての用途(文化財{(17)項}も含む)
4.規模等
- 地階を除く延べ面積5万㎡以上
- 地階を除く5階以上10階以下で延べ面積2万㎡以下
- 地階を除く階数が11階以上で延べ面積1万㎡以上
- 地下街で延べ面積1000㎡以上
※複合用途の場合は、共同住宅・格納庫・倉庫を除いた規模で計算します。
※複合用途の対象となる建物のうち、共同住宅・格納庫・倉庫部分は自衛消防組織の設置は不要ですが、防災管理者の選任及び届出は必要です。
※建物のオーナーが同一でかつ同一敷地内にある建物は合算して計算します。(消防法施行令第2条)
5.法改正により変わること
防火対象物のビル内の管理権原者(各テナント)ごとに義務づけられる事項
- 防災管理者の選任及び届出
- 防火管理・防災管理に関する講習を終了等の一定の資格者から選任する
- 防災に係る消防計画の作成及び届出
- 地震発生時の被害を想定
- 家具固定等の応急措置
- 地震発生時の応急措置
- その他の災害時の避難誘導等
- 自衛消防組織の設置及び届出
- 自衛消防業務に関する講習を受講等の一定の資格者を統括管理者とする
- 業務ごとに一定の要員
- 管理権原が分かれている場合は共同で設置
- 防災管理点検資格者による防災管理点検報告
- 防火管理業務の実施状況について1年に1回資格者による点検・報告
- 統括防災管理制度がスタート(平成26年4月1日より共同防災管理制度が改正されています)
管理権原が分かれているビル等の場合は以下のことが義務付けられました。- 統括防災管理者の選任(資格は防災管理者)
- 建物全体についての消防計画の届出
※届出はすべて所轄の消防機関になります
Ⅲ.防災管理者の選任と届出
1.防災管理者の選任と届出(法第36条において準用する第8条、令第47条)
地震の災害による被害の軽減のため、管理権原者、防災管理者を選任し、所轄の消防機関に届出すると共に、消防計画の作成、届出、当該消防計画に基づく防災管理上必要な業務を実施することが義務付けられました。
2.防災管理者が必要な場合
- 対象の建物にオーナーが一人の場合は、基本的に防災管理者も一人です。
- 対象となる建物に複数のオーナーがいる場合(建物に複数のテナントが入居している場合)は、基本的に各テナントごとに防災管理者が必要です。
※建物全体が対象であれば、テナントの規模の大小に関わりなく、防災管理者が必要となります。
さらに、建物の共用部と各テナントの専有部を橋渡しする共同防災管理が必要であり、統括防災管理者の選任と届出が必要です。
※通常は建物の共用部を管理している防災管理者が統括管理者になります。
3.防災管理者の業務
- 防災に係る消防計画の作成及び届出
- 消防計画に基づく防災管理上の必要な業務
4.防災管理者の資格
1)防災管理上必要な業務を遂行できる管理的又は監督的な地位にあるもの
2)必要な知識技能を有するもの
・甲種防火管理者の資格を有する者が、防災管理新規講習(1日間)を受講した場合
・防火・防災管理新規講習(2日間)を受講したもの
・消防職員で管理監督的な職に1年以上の経験のあるもの
・消防団員で管理監督的な職に3年以上の経験のあるもの など
※ただし法第36条第2項により、防災管理者は、防火管理業務を併せて行うこととなり、防災管理者と防火管理者は同一人でなければならず、委託する場合は防火・防災管理業務を併せて行わなければならない。
※また甲種防火対象物の小規模テナント部分の特例により、乙種防火管理者講習の資格で、防火管理者が選任されていた部分について防災管理業務の対象となる場合は、防火・防災管理新規講習(2日間)を受講しなければならない。
5.防災管理者の資格を取得するには
防災管理講習ー一般財団法人 日本防火・防災協会HPをご参照下さい。
Ⅳ.消防計画の作成と届出
1.消防計画の作成と届出(令第48条、規則第51条の8)
地震等の災害による被害軽減のために、管理権原者に指示を受けて、防災管理者が消防計画を作成し、消防長等へ届け出ることが義務付けられました。消防計画に盛り込むべき項目は、規則第51条の8の規定及び「消防計画作成ガイドライン」(「予防行政のあり方に関する検討会」に「消防計画作成ガイドライン等検討WG」を設けて検討された内容)等に例示された事項を防火対象物の実態に合わせて取り入れることが必要です。特徴は下記の通りです。
大規模地震等に対応した消防計画作成ガイドラインについて(消防庁予防課)をご参照下さい。
2.特徴
1)地震発生時の被害の想定及びその対策について盛り込むこと
・火災については、建築構造、消防用設備等においてその局限化が織り込まれている
・地震については、建築物等全体で同時多発的にその影響が生じることから、その被害を事前に想定して対策(業務内容、実施体制)を検討することが不可欠である。
2)訓練等を検証して消防計画を見直すことを明文化すること
3)PDCAサイクルによりベターな体制を構築していくこと
4)NBCR災害については、関係機関への通報及び避難誘導の実施を求めること
なお法第36条より防災管理者と防火管理者が同一人であることから、防災管理に係る消防計画と防火管理に係る消防計画は、一本化することがのぞましいとされています。この場合、届出様式は防災管理に係る消防計画と防火管理に係る消防計画の2枚であるが、中身の消防計画は1つでよいこと、とあります。
下記ご参照下さい。
大規模地震対応消防計画(消防科学総合センター)
Ⅴ.自衛消防組織の設置と届出
1.自衛消防組織の設置と届出(法第8条の2の5)
災害時の応急対策を円滑に行い、防火対象物の利用者の安全を確保するため、多数の者の出入りする大規模な防火対象物について、自衛消防組織の設置が義務付けられました。
2.自衛消防組織の編成
1)自衛消防組織の全体を指揮するものとして統括管理者(自衛消防隊長)を配置する(令第4条の2の8、規則第4条の2の13)。統括管理者の資格は自衛消防業務講習受講者等の法定資格者でなければなりません。
自衛消防業務講習については下記ご参照下さい。
自衛消防業務講習-日本消防設備安全センター
3.要員の配置
3.要員の配置については、基本的な自衛消防業務(①初期消火活動、②情報の収集、伝達、消防用設備等の監視、③在館者の避難誘導、④在館者の救出救護)について最低2名以上の要員の確保が必要である。
3.自衛消防隊は、本部隊と地区隊とで編成するが、内部組織を編成する場合は、本部隊の基本的な自衛消防業務(①から④)の各班の班長(統括者)には、自衛消防業務講習を受講させなければならない。
※自衛消防組織の設置に伴う消防長等への届出が義務付けられました(法第8条の2の5②、規則第4条の2の15)
※自衛消防組織未設置の際の設置命令が新設されました
※防火対象物の使用禁止命令の要件等に自衛消防組織設置命令違反等が追加されました。
4.具体的には
消防計画において自衛消防組織の業務に関する事項を定めます。また、自衛消防組織には本部隊と地区隊があります。本部隊は必ず設置が必要ですが、地区隊は建物の形態に合わせて編成を考慮します。本部隊は次のような編成が義務づけられています。
1)自衛消防組織の統括管理者(1人)
2)情報収集班(2人以上)
3)設備監視班(2人以上)
4)初期消火班(2人以上)
5)避難誘導班(2人以上)
6)救出救護班(2人以上)
※2)~6)の各班には班長を設ける必要があります
※統括管理者と各班長は自衛消防業務講習を受講する必要があります。
※各班に割り当てる人数が不足する場合は兼任することが出来ます。
※休日・夜間も各人数を割り当てる必要があります。
Ⅵ.防災管理点検の実施と報告
1.防災管理点検の実施と報告(法第36条において準用する第8条の2の2ほか)
防災管理業務の実施が義務となる対象物全てが防災管理点検報告制度の対象となり、管理権原者は、防災管理点検資格者の点検を年に1回受け、その結果を消防長等に報告することが義務づけられました。(防火対象物点検の対象外でも義務となることがあります)
2.主な点検事項
・防災管理者選任の届出及び防災管理に係る消防計画作成の届出
・自衛消防組織設置の届出
・防災管理に係る消防計画に基づき防災管理業務が適切に実施されていること
・統括防災管理者選任の届出及び全体についての消防計画作成の届出
・避難施設等が適切に管理されていること
※ただし基本的にはソフト面に限定されています
3.防災管理点検資格者
以下の者で登録機関が実施する講習(8時間)を受講したもの
・防火対象物点検資格者として3年以上の実務経験を有するもの
・市町村の消防職員で、防災管理に関する業務について、1年以上の実務経験を有するもの
・防災管理者として3年以上の実務経験を有するもの
4.防災基準点検済証(規則第51条の12第2項において準用する第4条の2の4第1項)
防火対象物点検・防災管理点検の両方が義務となる防火対象物は、両方の表示要件を満たしている場合のみ、防火・防災基準点検済証として1枚のみ表示することができます。
Ⅶ.事業継続計画(BCP)・地域防災との関係
1.事業継続との関係
防災基本計画においては、企業は、災害時に重要業務を継続するための事業継続計画(BCP)を策定するよう努めることとされています。消防計画に基づいて行われる防火・防災管理業務は、人命安全の確保や二次災害の防止の点で、企業の重要な業務の継続という観点においてもその基盤として重視すべきものとされています。このため、BCPを作成している場合には、両者が円滑に計画・実施され、特に緊急時に実際の活動現場において消防計画に基づく応急対策が的確に講じられるよう、意思決定プロセスや指揮管理体制の構築、計画・マニュアルの作成、訓練の実施が必要です。この場合、適切なトップマネジメントが求められます。また消防計画及びBCP作成上の災害想定等の検討についても、相互に活用を図ることが効率的です。
2.地域防災との関係
大規模地震等に対応した消防計画は、当該地域の地域防災計画等との整合性を確保することが必要です。また、防火対象物において整備されている自衛消防組織や資機材等を活用するとともに、消防団や自主防災組織等との連携を強化し、地域の消防防災力の一層の充実を図ることが推奨されています。こうした地域貢献を行うに当たっては、当該防火対象物における応急対応を行う体制が確保されていることが前提であり、このためには、被災状況の把握、応急対応に要する人的・物的資源等の特定、意思決定方法等のプロセスを明確化して消防計画に定めておくことが必要です。