管理権原者と防火管理者の役割

Ⅰ.管理権原者

1.管理権原者とは

 管理権原者とは、建物について正当な管理権を有する人、つまり、「建物の管理行為を法律、契約又は慣習上当然行うべき者」のことで、一般的に建物の所有者や管理者、テナントを経営する賃借人がこれに当たります。しかし大規模ビルなどで、建物を使用する者と管理する者が分かれている場合や所有者が管理に対して実質的な影響力を及ぼしていない場合は、管理する側の社長や理事長などの立場にある人が管理権原者に該当します。また、本来の管理権原者(社長や理事長など)から職務命令によって管理を委託された者(支店長や工場長、学校長など)も管理権原者とみなされますが、その場合、防火管理者の選任や権限の付与といった人事管理権とともに、防火管理上必要な経費を支出し、建物の増改築や設備を設置、維持管理できる権限を有していなければなりません。また、防火管理を行わなければならない建物に、複数の管理権原者がいる場合は、そのすべての管理権原者が防火管理を行わなくてはならないとされています。

2.管理権原者の責務

1)管理責任

 防火管理には「自分たちの職場は自分たちで守る」という基本原則があります。つまり、そこで働くすべての人が防火管理の重要性を認識していることが大切になります。その建物で働く人の防火管理意識は、最終責任者である管理権原者の姿勢によって決まるとも言えますので、管理権原者はこのことを常に考えて防火管理に率先して取り組み、従業員の指揮監督に努めなければなりません。防火管理は、企業・事業所の社会的責任であり、万一、事業所等から火災を発生させた場合には、その影響は一つの事業所だけにとどまらず、企業全体の業績やイメージを悪化させることもあります。また、防火管理の最終責任者である管理権原者は、消防法、刑法、民法など様々な面から責任を問われることもあります。

2)防火管理者の選任

 管理権原者は、有資格者の中から防火管理者を選任し、防火管理上必要な業務を行わせる必要があります。防火管理者の選任は、防火管理業務が広範かつ専門的であり、管理権原者が防火管理者と両方を兼ねて一人で行うことは困難なので、従業員等の中から資格を持っている適任者を防火管理者として選任し、防火管理上の権限を委ねることにより、防火管理業務を有効かつ確実に機能させようとするものです。管理権原者自身が防火管理者の資格を持っていて、管理権原者の業務と防火管理業務の両方を行うことができるのであれば、自分を防火管理者として選任することも可能です。管理権原者は防火管理者を選任したら、遅滞なく所轄の消防長又は消防署長に届け出なければなりません。これは解任したときも同様です。また、新築の建物若しくは新たにテナントに入った事業所等にあっては、使用開始がされるまでに防火管理者を選任し、届出なければなりません。(法第8条第2項)

3)監督責任

 管理権原者は、防火管理者を選任すれば、防火管理の責任はなく、一切の防火管理業務を防火管理者に任せきりにしても良いというわけではありません。つまり、管理権原者はその責任をすべて転嫁することはできず、防火管理者とともに防火管理の責任があるとされています。そして当然、防火管理業務が適正に行われるように、防火管理者を指揮監督する義務があります。また、防火管理者が防火管理業務を行うときや消防計画を作成・変更するときは、その求めに応じて適切、有効な指示を与えなければなりません。消防長又は消防署長は、防火管理者の行う防火管理上必要な業務が消防法の規定や消防計画に従って行われていないと認めるときは、防火管理者ではなく管理権原者に対して、業務の適正な実施について必要な措置をこうずるように命ずることになります。(法第8条第4項)

Ⅱ.防火管理者

1.防火管理者とは

 防火管理者は、防火管理の最終責任者である管理権原者に防火上の管理を行う者として選任された人です。つまり、火災予防と火災時の人命と建物を守るために対策をたて、実践していくうえで中心となる人です。しかし、ただ単に、防火管理者を定めているというだけでは意味がなく、組織的で実効性のある防火管理を行っていかなければなりません。防火管理者がその役割を果たすためには、防火管理に関する知識を持ち、火災を未然に防ぐために率先して取り組む責任感や行動力、指導力を兼ね備えている必要があります。そのため、防火管理者に求められる地位として、「防火対象物において防火管理上必要な業務を適切に遂行することができる管理的又は監督的な地位にあるもの」と規定されています。(令第3条第1項)
一般的に、防火管理者は、管理権原者と直接意見の交換ができ、防火管理を行っていくうえで必要な経費の支出や、従業員の訓練参加を指示、決定できる立場でなければなりません。具体的には、総務部長や管財課長などといった役職者や、小規模な事業所では、社長、専務、支配人などが望ましいと考えられます。

2.防火管理者の資格

 防火管理者に必要な法的資格は、令第3条に定められています。その資格を取得する方法の一つが、「防火管理講習」です。防火管理者の資格には甲種と乙種の二種類があり、これは管理する防火対象物の用途や規模によって甲種防火対象物と乙種防火対象物に区分されていることに対応したものです。甲種防火管理講習と乙種防火管理講習とでは講習の内容、時間とも異なり、防火管理者として選任される防火対象物にも違いがあります。

■甲種防火対象物

  1. 令別表第1(6)項ロ、(16)項イ及び(16の2)項の防火対象物(同表(16)項イ及び(16の2)項は、(6)項ロの用途部分に限る)で、収容人員が10人以上のもの
  2. 令別表第1(6)項ロを除く特定防火対象物((16)項イ及び(16の2)項は、(6)項ロの用途部分を除く)で、収容人員が30人以上かつ延べ面積300㎡以上のもの
  3. 非特定防火対象物で、収容人員が50人以上かつ延べ面積500㎡以上のもの
  4. 新築工事中の建築物で、収容人員が50人以上のもの等
  5. 建造中の旅客船で、収容人員が50人以上かつ甲板数が11以上等

 

■乙種防火対象物

  1. 令別表第1(6)項ロを除く特定防火対象物((16)項イ及び(16の2)項は、(6)項ロの用途部分を除く。)で、収容人員が30人以上かつ延べ面積300㎡未満のもの
  2. 非特定防火対象物で、収容人員が50人以上かつ延べ面積500㎡未満のもの

 

1)甲種防火管理講習

講習修了者は、用途、規模、収容人員に関係なく、すべての防火対象物で防火管理者になれます。

2)乙種防火管理講習

 講習修了者は、小規模な防火対象物や大規模は防火対象物の中での収容人員の少ないテナントの防火管理者にしかなれないという制限があります。

3)防火管理講習受講者以外で防火管理者として認められる者
  • 学校教育法による大学又は高等専門学校において総務大臣の指定あうる防災に関する学科又は課程を修めて卒業した者で、1年以上防火管理の実務経験を有するもの
  • 市町村の消防職員で、管理的又は監督的な職に1年以上あった者
  • 労働安全衛生法に規定する安全管理者として選任された者
  • 危険物保安管理者として選任された者で、甲種危険物取扱者免状の交付を受けている者
  • 鉱山保安法の規定により保安管理者として選任された者
  • 国若しくは都道府県の消防の事務に従事する職員で、1年以上管理的又は監督的な職にあった者
  • 警察官又はこれに準ずる警察職員で、3年以上管理的又は監督的な職にあった者
  • 建築主事又は一級建築士の資格を有する者で、1年以上防火管理の実務経験を有する者
  • 市町村の消防団員で、3年以上管理的又は監督的な職にあった者
  • その他消防庁長官が定める者

 

3.甲種防火管理再講習

 平成15年6月の法令改正により、建物の防火安全対策の強化が図られました。その中で劇場や飲食店・店舗・ホテル・病院など不特定多数の人が出入りする建物で収容人員300人以上の防火対象物の防火管理者については、より高度な防火管理能力が要求され、最新の知識と技能が必要とすることから、平成18年4月1日から甲種防火管理再講習の受講が義務付けられています。

4.再講習の受講期限

 再講習が必要な建物の防火管理者で、防火管理者に選任された日の4年前までに講習(甲種防火管理新規講習又は再講習)を受講している防火管理者は、選任された日から1年以内に、それ以外の防火管理者にあっては最後に講習を受講した日から5年以内に再講習を受講しなければなりません。再講習の受講後は、5年以内ごとに再講習を受講しなければなりません。

5.防火管理者の責務

 防火管理者は、防火管理上必要な業務を行うときは、必要に応じて管理権原者に指示を求めて、誠実に職務を行わなければならず、設備や施設の点検及び整備又は火気の使用等に関する監督を行うときは、火元責任者や防火管理業務に従事する者に対して必要な指示を与えなければなりません。その他に自らの建物に応じた消防計画を作成し、この計画に基づいた消火、通報及び避難の訓練を定期的に実施しなければなりません。(令第4条)

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